AI副業はもう限界?Appen・TELUSの赤字が示す未来

ロボットと赤信号がともっている画像

1. 黒字化できないAIトレーナー企業の現実

AIトレーナーという副業は、英語がわかる日本語ネイティブであれば在宅で取り組める仕事として、日本でも関心が高まっています。
中には「時給5,000円超も可能」と紹介する記事もあり、魅力的に映るかもしれません。

でも、ふと立ち止まって考えてみました。
「この業界って、プラットフォーム企業側は儲かっているのか?」と。

調べてみると、主要なAIトレーナー関連企業の財務状況は、意外なほど厳しいものでした。

Appen(オーストラリア・ASX上場)

  • 2024年度の売上は2.35億ドルで、前年比▲14%の減少
  • 最終損失は2,000万ドル
  • Googleとの大型契約を2024年3月に喪失し、業績に大きな打撃
  • これで3年連続の赤字となり、収益構造の改善は見えていない
  • 出典:Yahoo! Finance
  • 出典:CNBC

TELUS International(カナダ・NYSE/TSX上場)

  • 2024年の最終損失は6,100万ドルに達し、前年の黒字から転落
  • AIデータソリューション部門の収益が悪化の一因とされる
  • 出典:Yahoo! Finance

Scale AI(米・非上場)

こうして見てみると、規模・知名度に関わらず、いずれの企業も収益化に苦戦しているのが現状です。
副業としては魅力的に映っても、その裏では「業界構造として利益が出しにくい」という本質的な課題を抱えていることがわかります。

2. それでもAI市場は成長している

とはいえ、「AI市場そのものが頭打ちなのか?」というと、それも違います。
むしろ真逆です。

2025年7月末に発表された東京エレクトロン(TEL)の最新決算では、AI関連の半導体需要が引き続き強いことが明確に示されました。

  • 売上:5,495億円(2025年度第1四半期)
  • 営業利益率:26.3%
  • 今期の設備投資・研究開発費:5,350億円を継続予定
  • AIサーバーに不可欠な最先端半導体がCY2026(FY2027)の成長ドライバーと明記
  • 出典:東京エレクトロン IR資料(2025年Q1)

つまり、AIサーバー向けのハードウェアインフラには、いまも巨額の投資が続いているのです。

このことから分かるのは、
「AIトレーナー企業の苦戦=AI市場の縮小」ではなく、
“どこに利益が集まるか”が偏っているという構造です。

3. 利益が集まるのは“インフラ層”、取りこぼすのは“人手層”

同じAI産業の中でも、利益が溜まりやすい場所とそうでない場所がはっきり分かれてきています。

  • 半導体装置やGPU、クラウドインフラといった領域は、営業利益率20〜30%、粗利60%超という高収益ビジネス
  • 一方、AIトレーナー業務などの人手を要するデータアノテーション事業は、単価競争・顧客集中・自動化の波で利益率が削られやすい

結果として、市場は拡大しているのに、人手による作業に頼る仕事(AIトレーナー)には利益が回りにくいという“偏在”が起きています。

4. これからは「STEM(STEAM)を知っているAIトレーナー」だけが残るのかもしれない

最近、Outlierの募集状況に変化がありました。
以前は日本人向けには「日本語」スキルが求められる「Language」タスクがありましたが、2025年現在はそれが消え、代わりに「STEMやSTEAM(Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術・教養)、Mathematics(数学))」カテゴリの求人だけが残っています。

さらに、最近追加された案件の内容もジェネラリストではなく「グラフィックデザイン」や「医療」でした。

STEAM分野の知識が求められる理由

  • AIが数式やコードを出力するようになり、正誤判断が求められる
  • 推論・計算・動作検証など、論理性を問うタスクが増えている
  • インストラクションや評価プロトコルがSTEAM知識前提で設計されるようになってきている

文系タスクの減少傾向

  • 単純な言語タスクは自動化が進行
  • 多言語案件のボリュームは縮小中
  • 難易度の低いタスクは報酬単価も低下

これからのAIトレーナーに求められるスキル

  • 高校~大学レベルの数学・物理を復習する
  • PythonやJSONなどの初歩的なコーディングを理解する
  • 医療・金融・法務などの専門性やSTEAMスキルを高める

AIが進化するほど、人間にも論理的・専門的な評価力が求められる。
それが、AIトレーナーという仕事の“次のフェーズ”です。

5. まとめ:市場は伸びている。問題は“立ち位置”

AI市場は今も拡大しています。直近の東京エレクトロンの決算資料でも裏付けられています。
しかし、利益を生んでいるのはハードウェアやクラウド領域であり、人手作業の領域は赤字が続いています。

Appen、TELUS、Scale AI のような大手がいずれも黒字化できていないことは、
副業ワーカーにも無関係とは言えません。

単純タスクだけをこなしていては、報酬も案件も減り続ける。
STEAMなどの専門性を持った“選ばれるワーカー”になることがこれからの生存条件です。

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